ことばパティオ

連載「ことばのデザイン」 第6回


連載 「ことばのデザイン」  第6回 個性はことばに従う/草野 剛


   相手との会話からはじまり、意思伝達のためにことばを選んだところから、ことばのデザインがはじまります。

   相手に「印象」を与える(伝える)とき、相手とのスムーズな関係を形成するためによりベストなことばを選びます。相手にある特定の印象を与えるために、同じ意味でもさまざまなことばが開発されてきました。

   たとえば、「欲しい」を伝える場合、「ください」「くれ」「ちょうだい」などのことばがあります。礼儀を必要とする場合には一般的に「ください」を選び、気の置けない仲間には「くれ」と楽なことばで飾りなく、子どもには「ちょうだい」と優しくかつ可愛いく、という具合に語句のニュアンスによって印象をコントロールできます。語句に含まれるニュアンスを活用することは、デザインの領域だと思います。

   また、話す側の個性を加えることでその質が大きく変化します。趣味や環境によって個性は育まれますが、生まれた場所、兄弟、交友関係、趣味のジャンルなど、さまざまな要因が少しずつ影響し、自身の個性が確立します。突然ですが、『形態は機能に従う(form follows function )』(※1)ということばがあります。ティーカップの形は、カップの熱さに触れないように取っ手がつきました。ドアのノブは、開きやすさを考えてあの形になりました。ゲームの十字型のキーは、操作性を追求してあの形になっています。

   『形態は機能に従う』。『形態』=個性(より○○らしいデザインをすること)、『機能』=ことば(「タフ」や「かわいい」など)とすれば、デザインにおける定理がしっくりきます。相手に対する印象をことばでコントロールするところから、ことばのデザインははじまります。このことばに帯びている印象を形に落とし込む作業こそがデザインなのです。

   形や色や質感などのさまざまな素材を掛け合わせ、ことばをデザインしていきます。たとえばあることばに「タフ」な印象を持たせるには、太く力強い文字と目立つハッキリとした色を選び、質感に汚れを加えて荒れた印象を持たせます。これによって、「多少のことでは大丈夫!」「壊れることはありません!」といったイメージが完成します。このように、まずはデザインの柱となる「ことば」自体にこうした明確な意思があると、デザインがより機能するのです。
(2009年5月13日)

※1 形態は機能に従う(form follows function)…アメリカの建築家ルイス・サリヴァン(Louis Sullivan)のことば。ルイス・サリヴァンは「シカゴ派」と呼ばれる建築スタイルを代表する建築家の1人。このことばはドイツの建築家ヴァルター・グロピウス(Walter Gropius)が造形学校「バウハウス」の理念として掲げ、デザインの分野に浸透した。




草野 剛 (くさの つよし)
1973年生まれ、東京都出身。株式会社アスキーを経て、有限会社草野剛デザイン事務所を設立。武蔵野美術大学非常勤講師。CI、書籍の装丁、アニメーションDVD、ファッションカタログ、CDジャケットなどグラフィックデザイン全般の制作を行う。代表的な作品は「BEAMS T」ロゴデザイン、映画「鉄コン筋クリート」「交響詩篇エウレカセブン」などのアートディレクション、及びデザインなど。
Webサイト:http://www.kusano-design.com/



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第4回 尾原史和(SOUP DESIGN) 「ことばと文字のかたち」
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